教化センター

愛宕薬師フォーラム報告

第24回 愛宕薬師フォーラム平成28年6月27日 別院真福寺

密教と吉凶ー密教における占いの世界ー

講師:天台寺門宗 金翅鳥院住職 羽田 守快 先生

はじめに
 去る平成28年6月27日(月)、別院真福寺地下講堂において第24回愛宕薬師フォーラムを開催いたしました。今回は、天台寺門宗 金(こん)翅(じ)鳥(ちょう)院(いん)住職・羽田(はねだ)守(しゅ)快(かい)先生をお招きし、「密教と吉凶―密教における占いの世界―」と題してご講演賜りました。会場に集まった120名を超える聴講者は、普段あまり拝聴できない密教の占いの世界の話に、熱心に耳を傾けていました。講演の最初と最後には、先生自らの経頭で、地下講堂ご本尊大日如来さまへ、聴講者一同と共に心経法楽を捧げられました。以下、当日の講演を要約して報告します。
 
密教占星術との出会い
密教の占いと私の出会いは、大学生の時に東京大井の聖天さん、大福生寺へ伺ったことでした。当時私は、将来どうしていこうか悩んでいました。聖天さんに惹かれるものがあり、『聖天信仰の手引き』という書が大福生寺で販売されていましたので、それを手に入れたいと伺いました。すると、熱心な方でないと信者にしませんよといわれ、お経本を1冊渡されました。私は別に信者になろうと思っていたわけではなかったのですが、どうも自分に縁があるのはここではないかと思い、日参をして信者となりました。四六時中お参りしていましたので、お前は大学に行っているのかといわれるぐらいお寺に通っていました。もちろん大学にも行っていましたけどね。そうこうするうちに、行をしてみたらどうかといわれ、得度を受けました。それからさまざまな行を積み、本山にも行って僧侶となりました。
大福生寺は加持祈祷のお寺でしたので、どうしても参拝者の相談を受けることになります。「どんなことですか? 病気ですか? どんな病気ですか? 医者はどういっていますか? 危ないの?」みたいなそんな話から入っていく。すると、「これはどうですかね? どうなりますか?」「事業がうまくいきません」「息子に嫁が来ません」とかいろいろな相談を受けますよね。ただ世間話だけではなく、場合によっては、その問題について専門的な知識が必要になってくることもあります。世間的な、あらゆるものを知っていなければ答えられないのですね。法律・医学・心理学・経営のことなど……。でもすべての問いに答えることはできません。そこで、占いによって、お答えするということがあります。昔のお坊さんは知識階級でしたから、占いがなくても、これはこれ、それはそういうことだよと教えるのが役割だった時代もあったわけです。弘法大師さまに至っては治水工事も行い、三筆といわれる方ですから筆の方でも大変教養をお持ちの方だったわけです。私の師匠も占いをしていました。師匠は一般的な暦に出ている気学(きがく)(一白水星、二黒土星……)という九星で鑑定していました。
 
占いの種類
占いには今申した気学というものがあります。明治時代に園田(そのだ)真次郎(しんじろう)という方が、九星術を研究して気学と命名しました。気学の元である九星術は方位を鑑定するものでしたが、運勢や性格まで見られるようにしたのが気学です。たとえば干支を使う占いもあります。干支は60種類ありますので大変複雑になりますが、九星でしたら9種類ですので、そうでもないわけです。
それから四柱推(しちゅうすい)命(めい)という占いがあります。四柱とは、年・月・日・時の四種類のことで、それぞれの干支を使います。基本的には運命や性格を見るもので、方位を見るものではありません。気学に比べると細かいですから、本を1冊読んで分かりましたというわけにはいかない。
また紫微斗数(しびとすう)というものがあります。紫微とは、北極星のこと。北極星を中心に北斗七星とか、実際の星々を使います。斗というのは、数をはかるという意味です。ある意味非常に数学的なのです。
河洛(からく)理数(りすう)なんていう占いもあります。「からくり」って言葉の語源となった占いです。
これら占いの計算の基礎になるのは暦です。何年何月何日何時に、どこで生まれたかまで調べて計算するのです。気学ではそこまで調べませんが、紫微斗数や四柱推命となると時間や出生地まで全てが必要となってきます。
気学の便利な点は何かというと「大雑把」ということです。大雑把な占いは、大雑把に当たるのです。逆に細かい占いは、当たると細かいところまで当たるけど、当たらないと全然当たらないということになるのです。だからそれぞれに利点と難点があります。
 
陰陽五行説
東洋の占いはほとんど陰陽五行説がもとになっています。暦に出ている年齢早見表をみて下さい。一(いっ)白(ぱく)水星(すいせい)その隣は九(きゅう)紫(し)火(か)星(せい)、八白(はっぱく)土星(どせい)、七(しち)赤(せき)金星(きんせい)、六(ろっ)白(ぱく)金星(きんせい)、五(ご)黄(おう)土(ど)星(せい)、四(し)緑(ろく)木星(もくせい)、三(さん)碧(ぺき)木星(もくせい)、二(じ)黒土星(こくどせい)とあります。この木星・火星・土星・金星・水星というのが五行です。木から何ができますか?木が燃えると火ができます。火から何がでますか?木が燃え尽きたら灰になり土となりますね。土の中では金ができます。そして金からは水ができる。金から水ができるわけないと思われますが、金属を冷やすと表面に水滴ができます。そこで昔は金から水ができると考えました。
これらの関係を「生ずる」といいます。木生(もくしょう)火(か)、火生土(かしょうど)、土生(どしょう)金(きん)、金(きん)生水(しょうすい)、水(すい)生木(しょうもく)といいます。簡単にいえばこの生ずるという関係を相性が良い関係というのです。
 
例えば九紫火星の男性がいるとします。彼には一白水星の彼女がいるのです。縁談です。どうですか先生?と、母親から相談がくるわけです。火星の男性にとっていいのは、木生火か火生土なので、三碧・四緑の木星か、二黒・五黄・八白の土星の女性と相性がいいということになります。この場合は、火と水の関係です。水は火を消しますね。あなたの息子さんはこの女性をお嫁さんにもらったら頭が上がりませんよ。という判断になる。水剋(すいこく)火(か)、火剋(かこく)金(きん)、金剋(きんこく)木(もく)、木(もっ)剋(こく)土(ど)、土剋(どこく)水(すい)といいまして、これらは良くない関係というのが単純な占いです。また、木と木、金と金など同じ五行同士の場合は比和といい、友達のような関係となります。しかし、これだけでは決められないので、もっと細かく見ようということになります。他の部分を見て、もっと良いところがあるから、この部分は気にしなくてもいいねということになり、だんだん細かく深く見ていくものができてきたのです。年の五行の関係だけをみて、「かみさんとは剋だからやっぱり駄目だ」とは一概にはいえないわけです。
 
宿曜占星術
宿曜占星術について勉強し始めた当時は、誰も教えてくれる人がいませんでしたから、本を出している先生の所へ伺いました。その先生は新興宗教をやっていて、天台宗の僧侶をやめて新興宗教をやりなさいなんていうので、やめちゃいました。そんな時、友人から、よみうりランドに行こうって誘われたのです。子供じゃないですから行かないよって断ったのですが、ありがたい仏さまが祀られているから拝みに行こうよといわれて行きました。そこには伊勢の外宮に祀られていたという妙見菩薩が祀られていました。そこで宿曜の術を知りたいとお参りしたら、その後、次々と資料が手に入るようになりました。
 一般的な暦に出ている二十八宿は曜日と十二支の組み合わせでできているもので、宿曜占星術で使うものとは違います。宿曜占星術では「二十七宿」を使います。二十七宿は旧暦の日付によって配当が決まります。大阪の「新霊館」で出版している暦には二十七宿が出ています。智山派さんの『智山御寶暦』も今年から二十七宿で配当されているそうです。「高野山出版」で出版している暦も二十七宿なのですが、岩原(いわはら)諦信(たいしん)先生の説をもとにしたもので、実際の天体を観測したものを載せています。1日に2つの宿が配当される日などがあります。天文学的で貴重なものですが、私のやっているものとは違います。
近代の密教占星術の権威だと森田(もりた)龍遷(りゅうせん)先生の『密教占星法』上下2巻があります。専門にやる人は絶対見ておく必要があります。ただ、この書で占いをするのは難しいです。岩原先生も『星と真言密教』という書を出されています。付録に占星盤がついていて実践的なことを考えていらっしゃったと思います。ただ、岩原先生に逆らうわけではないのですが、宿曜経の中には「天道二十七宿これ広きあり、狭きあり、これを一つの四足となす」とあります。だから宿曜経の意図からいうと、二十七宿の各宿は、大きいものも小さいものもあるけど、おなじ大きさに考えなさいということです。
 宿曜占星術はインドの占星術に由来しています。もともとはバビロニア辺りで用いられていたものです。バビロニアから東はインドに伝わり、西は西洋に伝わって西洋占星術になりました。それが日本にも伝わってきました。
二十八宿と二十七宿の違いは何かというと、牛宿が入るか入らないかの違いです。宿曜占星術では正午の生まれを牛宿とします。インドの占星術では1日の切れ目はお昼の12時なのです。お昼をすぎたら次の日となる。
例えば初夜とは、お昼をすぎた最初の夜をいいます。午前零時過ぎの夜を後夜、正午までが日中です。初夜・後夜・日中の三座修法する。加行などでも初夜から入って日中で終わる。これはインドの一日の概念が伝わっているものなのです。インド風にいえば午後生まれは、次の日の生まれとなる。普通東洋系の占術では子の刻(午後11時)から一日が始まりますが、宿曜占星術の場合は午前零時を始まりとします。
 
本命星・元辰星
本命星とは自分の守り星です。元辰星は寿命や福徳を司る星です。共に北斗七星の中の一つの星が生まれた干支によって配当されます。
北斗七星の一星である破軍星の方角に行くと戦で破れるといわれます。戦国時代、山本勘助という武田信玄の軍師の書に、破軍星の悪い方向へ行っても大丈夫な方法が説かれています。自らが虚空蔵菩薩であると思えばよいというのです。なぜ虚空蔵菩薩かというと、宇宙を統べる仏が虚空蔵菩薩なので、星がどうであろうと大丈夫だよという考えです。これは大事なことです。
例えば、方位除け。方位が悪いので拝んでもらいましょう、ということになります。拝んでもらったお札には、「迷故三界城・悟故十方空・本来無東西・何処有南北」と書いてあります。迷うから方位がある、さとれば方位はないということです。では端(はな)から方位も見なければいい。星の吉凶なんてなんでいうのってことになります。そうではありません。知って否定することに意義があるのです。知らないで否定するのではありません。知って尚否定するのです。すなわち同じ次元であるとかないとかいっているのではなく、仏の世界へ一つ上がればそんなのないよってことです。だからさっきの話もそう、破軍星の方向が悪いといったって虚空蔵菩薩になれば関係ないよということです。そういう原理からご祈祷はできているのです。
しかし、端からそんなのないよ。迷信だよっていう方もいます。ところが迷信だと思っていたけど、引っ越してから悪いことばかりある。どうも女房が調べたら星が悪いのではないかというのですが、そんなバカなことあるのでしょうかって来るのです。調べてみると案の定、悪いのですよ。だからそんなことないって思っている人も潜在意識では引っかかっているのですね。引っかかったところを外すにはもう一段上の考え方をしないと外れません。あるとかないとか同じレベルで考えるのではなく、ランクアップするのですね。
 
当年星
当年星とは九曜星のことで、星祭りではこの星をもとに祈願をします。毎年変わり、今年の良し悪しがでます。今年自分はどの星に当たっているか調べるには、自分の満年齢(今年迎える年齢)で一の位と十の位をたして一ケタの数字を出せばすぐにわかります。(※たして二ケタとなる場合、更に一ケタになるまでたします。また零才は羅睺星)
今年28歳の人であれば、2と8をたすと10。1と0をたすと1、1は土曜星となる。今年41才の人は、4と1たすと5ですから火曜星となります。密教のお寺だけでなく、日蓮宗でも使います。羅睺(らご)星(せい)、土曜星、水曜星、金曜星、日曜星、火曜星、計(けい)都(と)星(せい)、月曜星、木曜星となります。火・土・羅・計に当たるときが悪い、四大悪曜といわれます。羅睺星とは日食月食のことをいう。羅睺阿修羅王という大阿修羅がいて太陽や月を時々捕まえると考えたのです。そこから日食や月食の時は悪いことが起こると大騒ぎしたのです。前回日食があったとき、ニュースで「中国の人はみんな外で見ています。一方でインドでは不吉だといい、見る物じゃないといって戸を閉めています」という報道がされていました。文化の差があるのです。密教占星術的には、日食月食はよくないと考えます。
ではいい星はというと、日・月・木がいい星です。水と金はまぁまぁです。9年間でぐるぐる回っていますので気学に似ていますが、別物です。この九曜を当年星といいます。厄というのは33・42才、たして6となるので、計都星に当たる年となり、やはり悪いのです。当年星から見ると前年が火曜星ですので、2年続きで悪い年となります。
羅睺星の年は日食月食ですから真っ暗なのです。ですからやみくもに動いてにっちもさっちもいかなくなることがあるのです。ただ、9年間の総決算、最初の年でもありますから、今まで頑張ってきた人にはいい年となることもあります。
土曜星の年は何か起こると大きくなる。ちょっとした事故でも車を廃車にしてしまうとか、大金をださなきゃならないはめにあうとか。何かあると大げさになることが多い年です。
火曜星の年は身体を崩しやすい。火曜星の時に病気をすると次の年が計都星ですので、次の年にもまたがるので注意が必要です。年内には治らないで、2年続きになったり、治ったように見えても再発することになります。
 
まとめ
 「密教占星術」は簡単には分かりづらいものかも知れません。しかし弘法大師ゆかりの占いでもありますので、ぜひ檀信徒教化の一助として、学ばれてみてはいかがでしょうか。
 

(構成/智山教化センター)