院長あいさつ

宮坂 宥洪

現在、智山伝法院が総合研究テーマとして掲げる
「伝統の創造―真言密教の実践的展開―」には一見奇異な印象を持たれるかもしれません。
平凡に「伝統と創造」と相反する二語を単に並列するのではなく、
あえて「伝統の創造」としたのは、
むろん決してこれから何か新しい伝統を創造するというような無謀なことではなく、
種を明かせば簡単なことながら、これは智山伝法院発足時に総合研究テーマとして掲げた
「真言密教の現代化」の路線を堅持し、これをしかと継承する決意を示したものに
ほかなりませんでした。
主題の「伝統の創造」も副題の「真言密教の実践的展開」も、いずれも「真言密教の現代化」の変奏なのです。
早や四半世紀を経た智山伝法院の歩みは、常に次の目標をめざしてきました。

1.真言密教の思想にもとづいて現代社会の諸問題を受けとめ、教学の現代における展開をはかる。
2.宗団の子弟教育を継続的に充実させるために教育と研究を担う研究者を養成する。

初代院長は、智山伝法院を「学問の梁山泊」にしたいと語っていました。『水滸伝』における「梁山泊」は「多彩な能力を持った優れた人々が集まる場所」の謂いです。異色な専門分野の学者が一堂に会して、たえず真剣に議論を交わし合う場は、今の日本では希少かもしれません。
幸いなことに、智山伝法院は今たしかに、「学問の梁山泊」になりつつあります。
そんな学問が一体何の役に立つのか、と世間の人々はよく言います。でも、今すぐに役に立つ学問は、早晩、すぐに役に立たなくなります。今は一見全然何の役に立たないような学問が、何年後か、あるいは数十年、数百年、数千年を経て、人類の指針になることもあります。
宗団の内外の諸賢のご協力とご指導を賜り、智山伝法院が所期の目標に向って新たな一歩を踏み出すことに、どうか格別のご理解とご支援のほどをよろしくお願い申し上げます。