第9回智積院写真コンテスト結果発表

「第9回智積院写真コンテスト」に多数のご応募をいただきましてありがとうございました。
厳正なる審査の結果、以下の方々が入選されました。
特別審査員の中田 昭 氏(日本写真家協会会員)、村中 修 氏(ビジュアルアーツ専門学校前校長)の選評と併せてご覧ください。

総評

四季の移ろいや、一日の時間変化の中で現れる境内風景を細やかに観察して撮影された作品も多く、熱心に作品制作して応募された様子が伺われました。今年も受賞者の中に過去に入賞された方の名前も見受けましたが、続けて応募する気力や工夫が、さらなる入賞の一助になっていると思います。(中田昭)

本年も実力伯仲するような作品が多々あり審査には苦労しました。また逆に同じ対象を撮るため、どうしても似たような作品も多くなります。今回はユニークな視点を持った作品を多く選出させていただきました。次年度も独自の視点を持ち、表現と技法がマッチした作品をお待ちしています。(村中修)

 

入選作品

 

最優秀賞


石川毅「色づく以前」

全体にハイキートンで五色幕と背景と楓の葉が光の中に眩しく佇んでいる様子が印象的でした。フィルターなり、何か特別な仕掛けを使われた可能性もありますが、効果的で適切なテクニックだったと思います。ストレートな表現から、ファンタジックな世界へ。これからの作品を見るのが楽しみです。(中田)

まだ色づかない紅葉をシルエットにしたアイデアが秀逸です。背景の五色幕の幻想的な光の滲みが秋の色づきを予感させます。今見えている世界から未来を想像させる、写真持つ力を感じた素晴らしい作品です。(村中)

 

優秀賞


久保皓司「日輪と紫陽花」

「日輪」は太陽に薄い雲がかかったとき、そのまわりに光の輪や虹ができる珍らしい現象で、そんな機会を見逃さず、紫陽花と組み合わせて撮影した冷静さが評価されました。空に露出を合わせたため、渋い紫色の紫陽花になっています。(中田)

日輪はご本尊大日如来様を彷彿とさせます。紫陽花はほとんどシルエットになっているのですがその事でより生命としての存在感が増しました。自然が持つ大きな力と御仏の功徳を感じさせる作品です。(村中)

 

優秀賞


井上信治「雨上がりの池」

池面にうなだれた一輪のハスの花。間もなく散る運命にあった花弁に、無常を感じさせられました。全体にローキーな画面の中に、かろうじて蓮の葉の緑色を残した画面の見せ方などに作者の力量が感じられました。(中田)

全体に暗めトーンの中に倒れた蓮の色彩が鮮烈です。命の儚さを感じさせる意味深い作品です。花弁についた水滴が生命のリアリティを感じさせ、その花にのみピントを合わせたカメラコントロールも見事でした。(村中)

 

特別賞


上林洋美「透明な祈り- 紫陽花の寺院」

紫陽花の風景をガラス球に閉じ込めた演出で、不思議な風景写真に仕上がっています。試行錯誤が効果的に画面に反映されていて、紫陽花の色や緑も爽やかに感じられました。過剰な演出は逆効果になることもあるので、注意が必要です。(中田)

水晶玉を使うことで視覚的な面白さ、不思議さを演出されました。時のこのような作品はアイデア倒れになりがちですが、しっかりとした画面構成で完成度を上げられています。右下の岩の存在もその異質さで効果的です。(村中)

 

奨励賞

フネカワフネオ「赤白黄色」

五色幕の赤と黄色を大胆に画面に配置し、その中に一輪の開花した沙羅(ナツツバキ)を構成した作品で、撮影時にファンダーを注意深く覗き、慎重なズーミングによって生まれた作品ではないかと思う。画面の外側の広がりも想像させられる。(中田)

写真は「引き算の芸術」とも言われますが、赤と黄色の長方形に直角に交わる枝、そして色のない白い花。要素を極限まで減らして成功されています。五色幕の花模様を程よくぼかし、実際の花と対比されているのも何かの暗示のようで効果的でした。(村中)

 

奨励賞


川口重一「移ろい」

一日花の沙羅(ナツツバキ)が池に散った絶妙のタイミングで、季節の移ろいに目を向けて撮影した秀作。画面を見ていると、平家物語の冒頭の言葉が浮かんでくるようで、無常世界を感じさせる。(中田)

暗い水面に浮かぶ白いナツツバキのコントラストが見事で、ほのかに見える蓮の葉、水面に映る木々の枝も奥行きを与えてくれています。まさに「沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす」と言う物語性を深く感じる作品です。(村中)

 

奨励賞


宮原泰隆「蓮池」

よく晴れた夏の早朝。清らかに咲いた一輪のハスと、境内を歩く僧侶の衣の黄色が対比となり画面にアクセントが生まれている。すべて控え目でありながら、力強い光線が画面に立体を与えている。(中田)

ワイドレンズでは多くのものが写り込んでくるのですが、手前のハスと遠景の僧侶が対をなす構図で画面をうまくまとめられています。ローアングルで空を大きく入れることで空の高さが出ました。(村中)

 

佳作


盛満英昭「急がないと」

よほど急な雨だったのだろう。両手に雑巾を持ち、濡れた廊下を足早に歩く僧侶の後ろ姿が印象的。咄嗟に構えたカメラのフレーミングも良く、屋根から落ちる雨の様子も見事に捉えられている。(中田)

大雨で濡れた縁側を、おそらくその水濡れを拭く雑巾を持って歩く僧侶の姿が印象的なスナップです。瀧のように落ちる雨水の雨音や、雨水の匂いまで感じるようなリアリティがあります。(村中)

 

佳作


岡本紳吾「錦秋」

秋の境内風景を幕の内側から捉えた作品で、平凡になりがちな中央の参道にも奥行が生まれている。作者が名付けた「錦秋」というタイトルとともに、ぬけるような青空と紅葉に、秋の盛りを感じさせた。(中田)

紺碧の空とイチョウの黄色、紅葉の赤、まさに「錦秋」というタイトルがぴったりの一枚です。金堂の上から下を見下ろして参道の遠近感を出しがちですが、水平なアングルで幔幕を入れ、紺碧の空を切りとった視点がユニークです。(村中)

入選作品の展示は、令和6年4月中旬から令和7年3月下旬まで
総本山智積院 大書院 鞘の間(リンク先、左中央5番)で展示いたします。
入選作品のほか、全応募作品をデジタルサイネージにてスライド展示いたします。

尚、令和6年3月1日から「第10回智積院写真コンテスト」を開催しております。
たくさんのご応募お待ちしております。