総合研究会―教学を再考する― 第1回講習会 報告
常勤研究員 別所弘淳
去る平成25年9月9日、高野山大学教授である佐藤隆彦先生を講師にお招きし「東密における講義と伝授」という内容で講習会を開催しました。
以下、その要旨を記します。
智山伝法院では、「伝統の創造―真言密教の実践的展開―」という総合研究テーマのもと、今までは特に、近代をめぐる問題について研究会やシンポジウム等で議論を重ねてきました。これらの成果は、すでに『現代密教』において各研究員がそれぞれの立場から発表しています。
これまでの議論を経て浮き彫りになったのは、近代仏教学を重視してきたために、教相が事相と乖離しているということです。今後はこの状況を反省し、改めて教相をとらえ直し、真言密教にとって「学」とはいかなるものであるのか、「教学」とは何か、「宗学」とは何か、といった大きな問題を精査する必要があります。そこで今年度より「総合研究会―教学を再考する―」という研究会を立ち上げることとなりました。
第1回は、去る平成25年9月9日、高野山大学教授である佐藤隆彦先生を講師にお招きし「東密における講義と伝授」という内容で講習会を開催いたしました。伝法院の研究員のみならず智山講伝所の先生方にもご案内をし、ご参加いただくことができました。
まず東密(真言密教)には、事相・教相の別によって伝統的に「講義」・「講伝」・「伝授」の三つがあるというところから講習会が始まりました。特に佐藤先生には、「講伝」・「伝授」についての詳細なご講演をいただきました。「講義」は、教相に関わるものであり、「二十五巻章」すなわち十巻章・『釈摩訶衍論』十巻・『大日経疏』(口疏)五巻を研鑽するもので、高野山では教理の中心を論義する勧学会に代表されるそうです。
「講伝」は、内容が事相・教相にわたり、現図曼荼羅・秘密儀軌・『秘蔵記』・『大日経疏』(奥疏)・『金剛頂経』・『理趣経』を研鑽するもので、すでに灌頂を受けた者を対象とするそうです。しかしながら先生は、江戸期に「講伝」という言葉が定着していなかった可能性を指摘されました。「講伝」という言葉の用例も含め、「講伝」という形式がどの時期から定着するようになったのか、という問題は、今後総合研究会を開催するにあたり、大いに検証が必要なことであると考えています。
「伝授」は、事相に関するものであり、作法・観想によって阿闍梨を大日如来、受者を金剛薩?とし、南天鉄塔を現出して法を伝える鉄塔相承を再現したものとご説明をいただきました。「伝授」には厳格な規定があり、阿闍梨を誹謗したり疑問を抱くこと、行者から阿闍梨への質問などを禁じています。これらの規定は、真言密教が最重要視する一つ、「法の相承」を「伝授」が請け負ってきたことを表しているといえます。
また佐藤先生は、事相の研究に関しては、その性質上「伝授」のあり方を研究することは不可能であるが、「聖教」の研究は可能であるとし、密教とは事相・教相・信仰が立体的に組み合わさった構造であると指摘されました。このような示唆は、「事相と乖離してしまった教相」という問題に端を発する当研究会の到達点を示すものと思われます。
今回の講習会で浮き彫りになった問題を、各研究員がそれぞれの立場から検証していくことが今後の課題であると思われます。また台密(天台密教)の「講伝」・「伝授」についても講習会を開催し、真言宗と比較しつつ考察していく予定です。